■ 引越し

「神戸で料理の修行を積みたい」と、
息子のSが富山から神戸に帰ってきた。
昨年まで、Sは義弟が経営する
イタリアン・レストランで働いていた。
「新しい職場が決まるまで
 お父さんと同居させて欲しい」と言う。
「いつまで?」と訊いたら、
「そんなに長くはいないと思うよ」と言う。
「ま、いいだろう」と答えておいたが、
これが大きな間違いだった・・・。
マウンテン・バイクは持ち込むは、
スタッドレス・タイヤは持ち込むは、
次から次へといろんな家財道具を持ち込んできた・・・。
部屋の中に足の踏み場がなくなる。
挙句はどこかで拾ったという猫まで持ち込んできた。
私のアパートは職場から歩いて五分ほどのところにある。
しかし、手狭になってきたので引越しを決意する。
息子に部屋をのっとられてしまったのだ。
「軒を貸して母屋をとられる」とはこのこと・・・。
今度のアパートは車で五分ほど離れた所。
銀杏並木に囲まれた閑静な住宅地の中の一画。
今日はその部屋の下見に出かける。
築三十年。
鉄筋四階建ての三階。
風呂・トイレ付きの3DK。
家賃は毎月の共益費込み三万六千円。
破格の安さ。
お化けでも出るんじゃなかろうか・・・。
部屋はとても清潔に保たれていて、
独り住まいには広すぎるほど。
近くには広葉樹が生い茂る小高い丘もあり、
散歩も楽しめそう・・・。
三十日から少しずつ家財道具を運び込むことにする。
引越しが終わったら、
とっておきのワインを飲みながら、
トリスタンとイゾルデ」を聴くつもり。