■ 安茂里のお兄さん

aquio2004-12-10

長野市安茂里(あもり)に住むHさんが、
今年も林檎を大量に持ってきてくださる。
Hさんと初めて出会ったのは、
私が長野県白馬村に住んでいた頃のこと。
当時、彼は青果物の行商を営んでいた。
彼が届けてくれる野菜はどれも新鮮で瑞々しく、
母や妻は「安茂里のお兄さん」と呼び、
彼が運転するトラックの到着を楽しみにしていた。
私が白馬村を離れ、
H村に居を構えたのは平成元年の六月。
その年の十一月、父が鬼籍に入る。
父の葬儀の日、
Hさんは長野県からH村まで駆け付けてくださった。
それ以後、
我が家とH家の関係は親密なものとなり、
毎年、林檎が熟れる季節になると、
観光かたがた林檎を届けてくださるようになる。
長野市からH村までの道程は片道約五百六十キロ。
Hさんの林檎は不格好で不揃いだが、
芯の部分には、
蜂蜜のように甘く透明な蜜が詰まっている。
「人も林檎も外見よりも中身なんだよね」とは、
酔っぱらった時のHさんのいつもの弁。
Hさんは青果物を通して人や人生を見つめている。