■ 雪女

aquio2004-12-31

昨晩から雪が深々と降り続いている。
雪が降ると思い出すことがある。
今から二十五年前、
日本海側の地方は記録的な大雪に見舞われた。
長野県白馬村では、
十三日もの間、雪が間断なく降り続き、
その間の積雪量は三メートル五十センチを超した。
道路も鉄道も不通。
管が凍てついて水が出ない。
架線が切れて電気も来ない・・・。
音のしない暗闇の中で、
蝋燭の灯だけで過ごした日々を思い出す。
深夜の二時ころ、
大屋根に降り積もっていた雪が、
その重さに耐えかねて、
轟音とともに滑り落ちたことがあった。
西側のすべての窓が湿った雪で塞がれていた。
U君と一緒に身支度を調え、スコップを持って外に出た。
外気温はマイナス十八度。
粉のような雪が猛烈な勢いで吹き付けていた。
あまりの寒さに、呼吸をする度に胸がチクチクと痛む。
雪は一切の音を吸収してしまう。
聴こえる音といえば、
スコップが雪を掻く音と、自分の呼吸の音だけ・・・。
隣で雪を掻くU君の気配すら感じられない。
そんな時、
誰かが私の後ろに立つ気配を感じた。
振り向くことが恐ろしかった。
雪掻きを終え、
暖炉に薪をくべていると、
「さっき、僕の後ろに誰かが立っていた」。
「女だと思う・・・」と、
U君がポツリと言った。
「俺の後ろにも誰かが立っていたよ」。
連日の雪掻きと寝不足で体力が消耗し、
意識も朦朧とした状態ではあったが、
確かに、
私たちの後ろには何者かが立っていたのだ。