■  S君

aquio2005-04-06

友人の息子のN君が、
友人のT君を連れてアトリエにやって来た。
T君は京都市立芸大の入試に失敗したらしく、
痛々しいほどに落ち込んでいた。
私は関西では有名な進学校で学んでいた。
進学率は常に百パーセント。
同窓生たちは東大や京大といった
国立大学に進学していったが、
約二百二十人の卒業生の内、
大学に進学できなかったのは、
私一人だけだった・・・。
アルバイトをして貯めた金である美大を受験した。
受験には受かったが、
入学金を出して欲しいとは、
どうしても両親に告げることができなかった。
当時、
父の経営する会社は倒産の危機にあった・・・。
当時の私はコンプレックスの塊であったように思える。
どうしても絵の勉強をしたかった私は、
一日四時間絵を描く、
それを四年間続けると決め、
いろんなアルバイトをしながら絵を描いた。
稼いだ金で動物園に通い、
一日中、河馬や象や猿を描いていた。
金の無い時は、
ベンチに座って、
通り過ぎる人や犬や猫を描いていた。
女性の裸体を描きたい時は、
金を貯めてストリップ劇場に通った。
若く美しい踊り子さんがステージに立った時は、
絵を描くのを止めてステージに見入っていた。
四年が経った時、
ある芸大の卒業展を見に行く機会を得た。
デッサンの基礎すらできていない、
そのあまりのお粗末さに驚いたことがあった。
大学に通えば絵が描けるようになる。
大学を出ればアーティストになれる・・・。
そんなことは幻想でしかない。
絵が描きたければ、
その気さえあれば、
絵はいつでもどこでも描ける。
私は高校卒でしかないが、
私の部下には美大卒の人間が五人もいる。
そんな話をT君にしたが、
理解してくれただろうか・・・。