■ 誕生日
Sが小学校三年生の時に作った紙版画。
九歳の子どもの作にしてはなかなかの構図だと思う。
版画をケント紙に貼り、
面相筆とカラス口を使って文字を描き、
映画のポスターのように仕上げた。
この版画は今も自宅の壁を飾っている。
私には息子が三人いる。
今日はその次男坊Sの誕生日。
Sは福島県の猪苗代湖の近くの産院で生まれた。
当時、私は会津磐梯山の裏側、
いわゆる「裏磐梯」と呼ばれる所に住んでいた。
五色沼のすぐ近く。
その年の冬、
裏磐梯地区は記録的な豪雪に見舞われた。
積雪量は五メートルを超えたと記憶している。
五月になっても道路の両側には雪の壁が残っていた。
産気づいた女房を車に乗せ、
雪の壁の中を猪苗代まで走ったことを
つい先日のように思い出す。
私の母方の爺さんは指物師だった。
父方の爺さんは料亭の調理人。
父は電気の技術者。
二人の叔父は、それぞれ鉄工と紡織の技術者であった。
私の家には、手を使ってモノを作る職人の血が流れている。
「手先系の家系」なのだ。
Sは小さなころから台所に立つのが好きだった。
何が彼の興味を惹いていたのだろうか・・・。
「僕は勉強が嫌いだから」と、
十五歳の時にコックになる道を選んだS。
これも血の流れかも知れない・・・。
Sが結婚して子どもが出来たら、
その時、この版画をSに戻すことにしよう。