■ Sのバラ
昨夜から岡山のH村に帰ってきている。
わずか六日ほどの間に、
山里の緑はすっかり色濃くなっていた。
玄関先のバラも咲きだした。
二十二年前、
三番目の息子の誕生を記念して買ったバラ。
バラの品種は忘れてしまったが、
我が家では「Sのバラ」と呼んでいる。
Sは息子の名前。
長野県から岡山県に引っ越す時、
小さな切り株を植木鉢に移植して持ってきた。
生命力が強いバラなのだろう、
十七年の間に
玄関先を覆い尽くすまでに育ってしまった。
Sは大阪の学校に通っている。
来年の春には卒業する。
昨夜、そのSから電話がかかってきた。
卒業旅行でアメリカに行くことになったらしい。
私もそうだったが、
こいつは金が入用の時にしか連絡してこない。
「そうかぁ、アメリカに行くのか!?」、
「お金もたくさん要るのだろうね?!」、
「アルバイトで旅費を貯めるのは大変だねぇ」と、先手を打つ。
Sはコンビニのサンクスでアルバイトをしているはず。
「そんな意地悪を言わないで・・・」と言うから、
「お父さん(私のこと)が大笑いするような小咄を三つ考えてこい」、
「お父さんを笑わせることができたら、旅費のことは考える」と、
そう答えておいた。
さて、どんな小咄で笑わせてくれるだろうか。
ま、大笑いできなくても、
結果的には小遣いを手渡すことになるのだろうが・・・。