■ 鶴里堂/かくりどう

aquio2005-08-24

馴染みのバーのマスターが滋賀に旅行するという。
「土産には何が欲しい?」と言うので、
遠慮深い私は、
「大津の鶴里堂の比叡杉羊羹が欲しいなぁ」
「あれ、美味いんだよねぇ・・・」
「小豆と抹茶の羊羹なんだけどさ」
「小豆と抹茶、それぞれ二本ずつ欲しいなぁ」と、
はっきり聞こえるように小声で答えておいた・・・。
昨日、そのマスターが帰ってきた。
「ほいよ、お土産!」といって手渡された袋の中に、
比叡杉羊羹は入っていなかった。
入っていたのは「淡あわ」という名のゼリー菓子であった。
慎み深い私は、
「手渡す袋を間違ったんじゃないの?」と、
小さな声でマスターに訊ねるのがやっとであったが、
こやつは「いや、羊羹よりそっちの方が安かったんや」と言うではないか。
「なんやてぇ!?」
「あれだけ比叡杉やて言うたやないか!」
「俺は鶴里の羊羹が食べたかったんや!」と喚くと、
「うん、あの羊羹は美味かった」と、抜け抜けと言うではないか。
「ゲッ、お前は食べてきたんか?」
「そりゃぁ美味しかったでぇ」と言うではないか。
慎み深く、かつ遠慮深い私は、
「チッ!」と小さく舌打ちするほかなす術を知らなかった・・・。
「冷蔵庫でよぉ冷やしてから食べるんやでぇ」
「冷凍庫に入れてシャーベットにしても美味しいらしいで」、
という声を背中に聞きながら、
私はトボトボと肩をおとして家路についた・・・。
「淡あわ」を冷凍庫に入れてみる。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い
マスター憎けりゃ菓子まで憎い・・・・。
しかし、シャーベット状に冷やした「淡あわ」は実に美味しかったぞ。