■ 自動扉
冷蔵庫の中にビールが入っていなかった。
一風呂浴びた後、アパートの近くのコンビニに出かける。
怪しい雰囲気のセドリックが駐車場に止まっていた。
怪しい雰囲気の中年の男と女がコンビニに向かっていく。
男と女に少し遅れて歩いていたら、
なんと、男が扉を開けて私を待ってくれているではないか。
「なぁ〜んだ、見かけは悪いけどいい人なんだぁ」と、
小走りに駆け寄り、「恐れ入ります」と礼を述べる。
後に続く人のために扉を開けて待つ・・・。
昔はいつでもどこでも日常に見られる光景だったが、
日本人が後続の人間に配慮しなくなって久しい。
いつからこうなってしまったのだろう・・・。
多分、「自動扉」が普及しだした頃からではないだろうか。
自動券売機、自動改札機、自動回転扉、煙草自動販売機・・・。
なんでもかんでも自動・・・。
「お婆ちゃん、ショート・ピース一つちょうだい」
「はいはい」
「お婆ちゃん、二箱もいらんねん。一箱でええねん」
「はいはい二箱ね」
「違うて、一箱でええて言うてるやろ」
「はいはい、二十円のおつり」
「あのな、ショート・ピースが一箱やからおつりは六十円やろ」
近所の煙草屋の婆さんは耳が遠いフリをしていたフシがある。
こんな調子で、私はいつも煙草を二箱売りつけられていた。
「面白い婆さんだったなぁ」と、
時々彼女のことを思い出すことがある。
自販機ではこうはいかない。
自動は便利だが、便利だけのものでしかない・・・。
そこにはコミュニケーションが生まれない。
多少の「不便」は社会の「潤滑油」であったような気がする。