■ F

aquio2005-11-13

帰り支度を整えていると、
私の携帯にFから連絡が入ってきた。
今から約三十年ほど前、
Fは私の家に四年間ほど居候をしていたことがある。
「Fです」
「おぉ、久しぶりやなあ」
「Nさん、今日はどこにいる?」
「岡山にいるよ」
「だったら○○○までやって来れませんか?」
「なんで?」
「俺、今○○○でキャンプしてるんですわ」
「OK、分かった。今から行くわ」
指定された場所に行くと、
Fは車の横にタープを張り、二脚の椅子を用意して待っていてくれた。
コールマンのランプに火を灯し、
クラッカーを頬張りながらコーヒーを飲む。
「どうした?俺に聞いて欲しい話でもあるのか?」と訊くと、
「好きな女ができた」・・・という答え。
相手は石垣島出身の女性であるらしい。
歳は二十七歳。
Fは今年で四十八歳になるはず。
一昨年、長年連れ添った女房と離婚した。いわゆるバツイチ。
二十七と四十八。その差じつに二十一歳の男と女の恋・・・・。
「本気なのか?」
「本気です!」
「お前の子どもたちやお袋さんはそのコトを知っているのか?」
「いや、まだ誰にも話してません・・・」
「長男のTは多感な年頃だよなぁ・・・?」
「そうなんですわ・・・・」
「一番の強敵はお袋さんだろうね?」
「俺もそう思いますわ・・・」
「とても祝福してくれそうにもないわなぁ・・・」
「はぁ・・・」
暗闇の中から「ヒュ〜ッ」「ヒ〜ッ」と鹿の鳴き声がさかんに聴こえる。
秋は鹿の発情の季節。
「人間は一年中発情してるから、いろんな問題が起きるよなぁ・・・」
「そんなきついことを言わんでも・・・」
「それで、お袋さんをどう説得する?」
「それを相談したいんですわ・・・」
満天の星空を見上げながら二時間ほど話し込んでいただろうか、
「ま、家族には真正面から切り出してみることやな」と、
一応の結論が出る・・・・・。
それにしても、
漆黒の闇の中で飲む一杯のコーヒーのなんと美味かったことか。
私にできることがあれば、何でもしてやろうと思う。