■ とんぼ返り
上の機械室から帰ってきたYさんが、
「板が大き過ぎてあの糸鋸機では切れんよ」と言う。
「どれくらい?」
「あと五センチほど板が短ければなぁ・・・!」
「たった五センチかぁ・・・!?」
糸鋸機を扱わせたらYさんの右に出る職人はいない。
Yさんが不可能と言うのだから、不可能に決まっている。
「どうする?」
「この近くに大型糸鋸機がある工場とかはないかい?」
「ない・・・ねぇ・・・」
「一番近いのはどこだろう?」
「岡山にある俺のアトリエだろうね!」
「どうする・・・・?」
「岡山に行くしかないだろうね」
「それじゃぁ岡山に行こう!」
午前十一時半、岡山のアトリエに向けて車を走らせる。
「今夜は何か用事があるって言ってなかった?」
「うん」
「何時に帰ればいい?」
「六時・・・かなぁ・・・」
「それじゃぁ昼飯を食う時間も無いなぁ・・・」
「どっかで握り飯でも買うか?」
「そうしよう・・・」
中国道のサービス・エリアで握り飯を四個と暖かいお茶を買う。
握り飯を頬張りながら西に向かう。
「こうして走っていると若い頃を思い出すなぁ」
「そうだねぇ、昔はよくこうして仕事をこなしたもんだったよなぁ」
岡山のアトリエには午後一時に到着。
二人して黙々と仕事に取り掛かる。
お互いがお互いの進行状況を見ながら、
次に自分が何をすべきかを判断しつつ作業を進める・・・。
阿吽の呼吸。
午後四時四十分、二枚の板を切り終える。
「六時までには神戸に帰れるかな?」
「飛ばせばな・・・・」
アトリエから出ると、
空は夕陽を受けて薄黄色に染まっていた。
「うわぁ・・・」と、声がもれるほどの美しさ・・・。
先ほど神戸のアトリエに帰ってきたばかり。
少し飛ばしすぎたかもしれない・・・・。