■ とんぼ返り

aquio2005-11-25

上の機械室から帰ってきたYさんが、
「板が大き過ぎてあの糸鋸機では切れんよ」と言う。
「どれくらい?」
「あと五センチほど板が短ければなぁ・・・!」
「たった五センチかぁ・・・!?」
糸鋸機を扱わせたらYさんの右に出る職人はいない。
Yさんが不可能と言うのだから、不可能に決まっている。
「どうする?」
「この近くに大型糸鋸機がある工場とかはないかい?」
「ない・・・ねぇ・・・」
「一番近いのはどこだろう?」
「岡山にある俺のアトリエだろうね!」
「どうする・・・・?」
「岡山に行くしかないだろうね」
「それじゃぁ岡山に行こう!」
午前十一時半、岡山のアトリエに向けて車を走らせる。
「今夜は何か用事があるって言ってなかった?」
「うん」
「何時に帰ればいい?」
「六時・・・かなぁ・・・」
「それじゃぁ昼飯を食う時間も無いなぁ・・・」
「どっかで握り飯でも買うか?」
「そうしよう・・・」
中国道のサービス・エリアで握り飯を四個と暖かいお茶を買う。
握り飯を頬張りながら西に向かう。
「こうして走っていると若い頃を思い出すなぁ」
「そうだねぇ、昔はよくこうして仕事をこなしたもんだったよなぁ」
岡山のアトリエには午後一時に到着。
二人して黙々と仕事に取り掛かる。
お互いがお互いの進行状況を見ながら、
次に自分が何をすべきかを判断しつつ作業を進める・・・。
阿吽の呼吸。
午後四時四十分、二枚の板を切り終える。
「六時までには神戸に帰れるかな?」
「飛ばせばな・・・・」
アトリエから出ると、
空は夕陽を受けて薄黄色に染まっていた。
「うわぁ・・・」と、声がもれるほどの美しさ・・・。
先ほど神戸のアトリエに帰ってきたばかり。
少し飛ばしすぎたかもしれない・・・・。