■ バレンタイン
母が数日前から私のアパートで寝泊りをしている。
昨夜、母が二枚の板チョコをくれた。
「明治」の「ミルク・チョコレート」と
「ブラック・チョコレート」の二枚。
母に言わせると、
チョコレートは「明治」に限るのだそうである。
「LA MAISON DU CHOCOLAT」や「GODIVA」、
「MEDEL」のチョコレートよりも美味しいのだそうである。
愛の告白はなかったが、
ちょっと早めのバレンタイン・チョコであるらしい。
マーケットの紙袋を覗いてみると、
包装された板チョコが十枚ほど入っていた。
いったい誰にプレゼントするのだろうか・・・。
母は大正十四年の生まれ。
今年の五月で八十一歳になるはず。
身体も元気だが、いたって口も元気。
一度くらい口を病んでくれないものかと思う・・・。
元気な婆さんではあるが、
元気でいてくれるのはとても有り難いし、嬉しい。
母が寝てしまったあと、
板チョコを齧りながらウイスキーを飲む。
「アンデルセン」の「絵のない絵本」を読み返す。
先ほどまでの騒がしさが嘘のようである。
「シーン」という音がうるさいほどの静けさ。
この静けさがなんとも有り難い・・・。
「お菓子の好きな巴里娘
二人そろえばいそいそと
角の菓子屋へボンジュール」・・・。
「西條八十」の「お菓子と娘」の歌詞をふいに思い出す。
歌っていたのは「中原美沙緒」だったっけ・・・。