■ A君

aquio2006-08-16

見知らぬ若者が私を訪ねてきた。
私の従兄弟の息子のA君であった。
単車を駆って、
島根と佐賀に住む友人たちを訪ねていく途中だという。
A君と最後に会ったのは彼が五歳の時だった。
歳を訊けば、今年で二十一歳になったという。
当時の面影はどこにもまったく残っていない。
あれから十六年の歳月が流れたことになる。
道ですれ違っても分からないほど、
お互いの風貌は変わってしまった・・・。
現在、A君は神戸大学に通っているらしいが、
ケーキ作りにとても興味があるという。
末はケーキ職人と、将来の道を決めているらしい。
大阪の有名ケーキ店でアルバイトをしながら大学に通っているという。
「バイトで百万円貯めてん」
「あと百万円貯まったらフランスに行くねん」
「フランスでケーキの修行したいねん」、と言う。
「おぉ、行け行け!」
「フランスでもイタリアでも、どこでも好きなとこ行ったらええねん」
「お母ちゃんとお父ちゃんが反対したら俺が説得したる!」
「若いうちにいろんな勉強しておけ」、と激励する。
久しぶりにやんちゃな男の子に出会ったような気がする・・・。
「ロール・ケーキでも作ろうか?」、と言うから、
その腕前を見せていただくことにした。
米の粉でも使ったのだろうか、
その食感は和を感じさせるものであった。
味もなかなかにいける・・・。
彼の爺さんは縫製の技術者だった。
その手先の器用さとセンスは爺さん譲りなのだろう。
私に出来ることがあれば何でもしてやろうと思うが、
しかし、彼はその手助けをきっと拒むに違いない。
彼は自分の力で生きていきたいと願っているのだ、とそう思う。