■ ジャケット
十一月二十五日、
衣類を箱に詰めてドイツに送る手筈を整えた。
「中には私の衣類が入っている」
「上書きした住所にコレを送るように」、
と私はO君に指示を出しておいた。
しかし、どこでどう聞き違えたのか、
O君は箱の中身を私の作品であると勘違いしたらしい。
箱をUPSに持ち込んだところ、
「中身は何か?」と訊ねられたという。
そりゃあそうだろう。
で、O君は適当な金額を申告したらしい。
虚偽の申告は違法行為なのだが、
関税を含む輸送料は三万八千円であった。
インヴォイスに「からくり人形」と書かれた箱を開けてみれば、
中にはパンツやシャツや靴下が入っていたのだから、
ドイツの税関も驚いたに違いない・・・。
インヴォイスと中身が一致しないモノは通関させるワケにはいかない。
で、箱は日本に付き返されることになった。
勿論、返還にかかる費用は送り主の負担になる。
ミュンヘンの宿で、私は衣類の到着を首を長くして待っていた。
ミュンヘンで何枚のシャツを買ったことか。
何枚のパンツを買ったことか・・・。
今日、その箱が職場に帰ってくる。
返還にかかった費用は四万八千円であった・・・。
フランネルのスラックスも、黒い靴も無事に帰ってきた。
オペラに着ていくはずだったグレーのジャケットも無事に帰ってきた。
ジャケットはグリコのおまけのデザイナーであった加藤裕三の遺品。
加藤はオペラが大好きだった。
加藤にも「魔笛」を観せてやるつもりだった・・・。
箱は一ヶ月かけて日本とドイツの間を往復してきた。
日独間をただ往復してきただけなのだが、
かかる費用は八万円を超えた。
さて、この費用はいったい誰が負担するのだろうか。