■ プリマ・ドンナ
妻と母がアパートに来ている。
年が明けたというに、相も変わらず声がでかい。
声の大きさをたしなめるため、
「貴女たちは道を間違えましたね」
「声楽家になっていれば大成したと思います」
「今からでも遅くはない!」
「声楽の勉強でも始めたら?」、と提案する。
しかし、彼女たちにその皮肉は通じなかった。
提案は大失敗であったと後悔する羽目に陥る。
「マリア・カラスのようになったらどうしよう?」とか、
「私は世紀のプリマ・ドンナよ!」とか、
まるで意味をなさない会話が延々と続く・・・。
しかも、相も変わらず声がでかい・・・。
「誰がマリア・カラスやねん!?」
「山のカラスの間違いとちゃうの?」
「演歌界の新星・山のカラスさんのご登場です!」
「歌っていただくのは、皆様ご存知、『七つの子』」
「さ、山のカラスさん、それでは張り切ってまいりましょう、とかさぁ・・・」
「それに何?黙って聞いていれば言いたい放題!」
「誰がプリマ・ドンナやねん?」
「プリマ・ハムの間違いとちゃうのん?」
「ボンレス・ハムのような体形の人が何を言うてんねん!」、
とついつい言ってしまったから、さぁ大変。
「親に向かってそんな酷いことを言う子どもに育てた憶えはない」とか、
「私のどこがハムなのよ?」とか、
「私はカラスほど色は黒くありません」とか、
猛烈な逆襲にあってしまった・・・。
ヨーロッパの諺に、「棺桶に入っても女の口は動いている」というのがある。
女は口から生まれ、最後に口が死ぬのでありますね。
女二人対男一人ではとても勝ち目がない。
今朝も早々と職場に出勤するのであった・・・。