■ 三朝温泉
中国道を西に向かって走っている時、
「人形峠には雪が積もっている」
「ノーマル・タイヤでの走行は無理」、
という連絡がT君から入る。
約束の時間にはまだまだ間に合う。
院庄インターで高速を下り、
最寄のオートバックスでスタッドレス・タイヤを購入。
179号線をソロソロと北に向かって走る。
H町の工事現場には、徳島のSさん、島根のMさん、
そして東京のNさんがいらっしゃっていた。
午後六時、すべての打ち合わせが終了する。
帰ろうとすると、
「この時間の山越えは危険だよ」
「道が凍結しているかもしれない」
「今夜は三朝温泉に宿をとってある」
「四人でゆっくり飲み明かそうよ」
「美味い蟹も用意させているからさぁ」、
とSさんがおっしゃる。
酒と蟹と温泉では断る理由が見つからない。
「困ったなぁ・・・」、なのであった。
仕方がないからお言葉に甘えることにする。
午後七時、宿の一室で、
無制限一本勝負蟹食い放題デス・マッチのゴングが鳴る。
「昔、赤坂に『MUGEN』っていうディスコがあったよなぁ」とか、
「大阪万博の会場で俺はさぁ・・・」とか、
「黛じゅんの『天使の誘惑』がどうした」とか、
「奥村チヨの『恋の奴隷』がこうした」とか、
オジサンたちの話題にはカビが生えたようなものが多い。
しかし、笑い話の中にも各人の波乱の人生が見え隠れする。
自分の人生を笑い飛ばせるような方々であるから、
その話の内容はとても面白く、そして濃い・・・。
午前一時、宴会終了。
いや、食べた飲んだ笑った。
しばらくは蟹の甲羅も見たくない。
今朝は六時半に眼が覚める。
朝風呂に浸かり、眠気と酔いを追い払う。
こんなことになるのなら替えの下着を持ってくればよかった。
二日目のパンツはしっくりと身体に馴染んでいたが、
なにやら気持ちが悪いのであった・・・。
午前七時半、神戸の職場に向かって出発する。