■ フォルクスワーゲンの広告キャンペーン
自宅の書架を整理していたら、
てとも懐かしい一冊の本が出てきた。
「美術出版社」刊・「西尾忠久」編著による
「フォルクスワーゲンの広告キャンペーン」
初版の発行は一九六三年だが、
この本は一九六四年発行の改訂四版ものだった。
私がこの本を購入したのは四十一年前のこと。
私が十九歳の時だった。
大阪梅田の古書店で買い求めた本。
裏には360円という価格が鉛筆で書かれていた。
この本には、「フォルクスワーゲン・タイプ1」、
いわゆる「カブト虫」と呼ばれる車をアメリカに売り込むため、
十七年に渡って制作され続けた広告がまとめられている。
紙面は、上部にモノクロームの写真、
下部にはキャッチ・コピーとその説明文、
という実に簡素なスタイルで構成されている。
このスタイルをまったく変えることなく、
「フォルクスワーゲン社」は広告を打ち続けたのだ。
一九四九年には二台しか売れなかった「カブト虫」だったが、
十二年後には二十万台もの「カブト虫」がアメリカを走っていた、という。
当時、私は日本画の勉強をしていた。
友禅の絵師になることを夢見ていたのだが、
この本に出会ってからというもの、
私は日本画に対する興味を急速に失っていった。
広告に使われる文章や写真や絵画・・・。
そのグラフィックの持つ力に魅入られてしまったのだ。
そして、私はグラフィック・デザイナーになることを決意した。
印刷屋、製版屋、画材屋、デザイン事務所・・・。
グラフィックに関係する職場を転々と渡り歩いたものだった。
とても懐かしい思い出・・・。
「フォルクスワーゲンの広告キャンペーン」
私の人生を変えた一冊である。