■ T教諭

aquio2007-08-16

国立大学に進学できそうな生徒はD組。
一流私立大学に進学できそうな生徒はC組。
三流私立大学に進学できそうな生徒はB組。
どうでもいいからサッサと卒業してくれ、
と半ば教師たちから見放されていたのがA組。
私が学んだ高校はそのようにクラス別けされていた。
三年の間に、
DからC、CからBへと転落する者もいれば、
AからC、CからDへと登っていく者もいた。
そんな中で、私は三年間をA組で過ごした。
屈辱的ではあったが、
成績が常に安定していた、ともいえる・・・。
名物教師揃いの高校であったが、
A組の代数の担任であったのがT教諭であった。
黒板に書かれた設問に答えられなかった場合、
チョークを鼻の穴に突っ込まれて、立たされた・・・。
なにしろ阿呆揃いのクラスであるから、
チョークが何本あっても足りない。
T教諭は五十本入りのチョークの箱をいつも嬉しそうに持ち歩いていた。
授業の最後の方になると、
チョークを鼻の穴に入れて立ち続ける生徒たちに対し、「敗者復活戦」が用意されていた。
黒板に書かれた新しい設問に答えなければならないのだが、
それに答えられなかった生徒は、
もう一方の鼻の穴にチョークを突っ込まれた・・・。
阿呆面、である。
屈辱的ではあったが、笑えた。
笑う度に、鼻に差し込まれたチョークがよく床に落ちた。
また、回収されたチョークは、その先が洟で湿っていた・・・。
「卒業式の日には覚悟してろよ!」、とクラスのワルたちは策を練っていたが、
軽くいなされてしまった、と聞く・・・。
T教諭は柔道部の顧問でもあったから、並みの腕力で太刀打ちできるはずなどなかった。
昨晩、そのT教諭の訃報に接する。
九十歳であったらしい。
私の子どもが高校に進学する時、
ある方程式の解き方を教えてやったことがある。
高校時代、代数の授業が嫌で嫌でたまらなかったものだが、
一度叩き込まれた知識は、そう簡単には忘れないものであることに驚いた憶えがある。
父親としての威厳を保てたのもT教諭のお蔭であった、といえる。
冥福をお祈りしたい。