■ 雷

aquio2007-08-22

鈴蘭台から有馬に向かう途中、
眼も眩むような電光とともに、雷が落ちる。
赤信号で止まっていた車がビリビリと揺れた。
今から四十五年前、
私が中学三年生であった頃、
ある山に登っていた時、
あれは三重県の国見山ではなかったかと思うが、
いきなり何の前触れもなく、
眼の前の木に雷が落ちたことがあった。
その木が火を噴きながら縦に割れるのを見た・・・。
落雷のショックは相当なものだった。
馬の背のような尾根道を歩いている時であったから、
どこにも逃げ場がない・・・。
「うわぁ・・・」という悲鳴をあげながら、
仲間と尾根から転げ落ちたことを、今も鮮明に憶えている。
尾根から転げ落ちている途中も、
背後では次から次へと雷が落ちていた。
尾根から遠ざかることしか頭になかったのだが、
雷が遠のき、谷川の岸辺で一息いれている時、
私たちは引率のT教諭の姿が見えないことに気付いた・・・。
T教諭の姿を探しながら、私たちは落ちてきた斜面を登っていった。
T教諭は、びしょ濡れの姿で山の斜面に倒れていた・・・。
意識はあったが、足がまったく動かない、という状態であった。
T教諭の話によると、
登っている途中からリューマチの発作が出ていた、ということであった。
しかし、中学三年生であった私たちには、
リューマチがどのような病気であるのか、その知識がなかったが、
とにかく、歩けないほどの痛みであることは理解できた。
雨の中、テントのグランド・シートを広げ、
近くに生えていた立ち木を斧で切り倒し、
即席の担架を作ってT教諭を麓まで運んだ、という記憶がある・・・。
T教諭は巨漢であった。
雷の音を聞く度、担架で運んだT教諭の重さを思い出す。