■ 進水式
子どもたちとゴム・スクリューの舟を作る。
船が進む原理を易しく教えながら、
いろいろな工具の使い方や絵筆の使い方、
コンパスの使い方や定規の使い方を教える。
しかし、あれだねぇ、
今の子どものほとんどが手を使うことを知らない。
ハンマーの使い方すら知らない。
口先は驚くほど器用であるが、
手先は驚くほどの不器用さ、である・・・。
「今日は私が子どもたちの一切の面倒をみます」
「お母様方は手も口も出さないでいただきたい」、
とそう言ったとたん、
母親たちはまるで親の仇でも見るかのような目つきで私を見た・・・。
「この船を夏休みの宿題として提出させたいんです」とか言っておったが、
そんなことは私の知ったこっちゃない。
「夏休みの宿題を金で買うんじゃないよ」、と言いたい。
なぜ夏休みに工作の宿題があるのか・・・。
その本質のところを理解していないから、そのような発言が出る。
私は子どもたちに、作る楽しみであるとか、
工夫する喜びであるとか、作り上げた時の達成感を味わってもらいたいため、
夏休みに工作教室を開いているのである。
「ここをこう工夫すると色は綺麗に仕上がるよ」、と教えると、
母親たちから、
「ほうら、ちゃんと先生の言うことを聞かなくっちゃ」、とかの野次が飛ぶ。
もう五月蝿いったらありゃしないのであるね。
「口を出すな!」って言ったばかりだろうが・・・。
口の中に消しゴム入れてやろうか、と思う。
子どもたちと一緒になって、私も私なりの船を一隻作ったが、
またもや母親たちから、「先生のと形が違うでしょう」、とかの野次が飛ぶ。
形が違って当然、色が違って当然、なのである。
サンプル通りに作ることを子どもに強いてどうする。
子どもにも好みの色や形があるのだよ。
三時間後、いろいろな色と形の船が出来上がる。
子どもたちは思い通りの船が作れて、至極ご満悦の様子であった。
それでいいのである・・・。
子どもたちの笑顔を見ることができれば、私もご満悦なのであるね。
私の船の名前は「AQUIO・60歳号」。
今夜はアパートの浴槽に浮かべて遊ぶつもり。