■ 心頭滅却
私の部屋にはエアコンが無い。
この夏もとうとうエアコン無しで過ごした。
部屋の窓をすべて開け放つと、
微風ではあるが、
六甲山からの風が部屋の中を吹きぬけていく。
食事を終えた後、
私は部屋の照明を消すことにしている。
部屋を照らすのは10Wほどの行灯だけ。
これだけのことで、なんとなく気分が落ち着く。
本を読む時には、
行灯のスイッチを切って読書灯を点ける。
この夏、風呂場の照明も40Wから10Wの電球に換えてみた。
薄暗い灯りの下で温い湯に浸かると、
なんとなく露天風呂に入っているような錯覚におちいる。
身体に溜まった疲れが抜けていくような気がする。
風呂から上がればベランダに出て、
蚊取り線香に火を点けて冷えたビールを飲む。
「夕涼みよくぞ男に生まれけり」、であるね。
向かいの棟の窓からは煌々とした灯りが漏れて見える。
日本の住宅の照明は明る過ぎるのではないか、と思う。
照明が明る過ぎるから、家の中に陰影が生まれない。
陰影が安らぎを生むような気がするのだが・・・。
昔、各家庭には必ず「蚊帳」があった。
窓を開け放して豆電球を点け、
一つの蚊帳の中で家族が枕を並べて寝たものだった。
よく蛍を捕まえてきては、蚊帳の中に放って遊んだ。
あの時代、エアコンなどはどの家にもなかった。
しかし、涼しく過ごすための「知恵」がいろいろとあった。
昔を懐かしむばかりではいけないが、
そろそろ、電気を湯水のように使う生活を考え直さなければならないのではないだろうか。
すぐそこに、そのような時代が来ているように思える。
部屋の照明をすべて消し、Aさんから頂戴した「Fun Fan」で遊ぶ。
スイッチを入れると、羽に取り付けられたダイオードが発光するという小さな扇風機。
赤・青・緑・黄・・・、色の輪が様々に変化する。
キッチュな色合いだが、とても美しい。
「安禅は必ずしも山水を用いず 心頭滅却すれば火もまた涼し」、なのである。