■ モンパルナスの灯
昔、大阪の天王寺には数軒の映画館があった。
あれは、私が中学二年生の頃だったろうか・・・、
ある映画館の看板に、
美しい少女の顔が大きく描かれていたことがあった。
映画の題名は「芽ばえ」。
その少女の名前は「ジャクリーヌ・ササール」だった。
「なんて綺麗な女の子なんだろう・・・」、
と心を揺り動かされた私は、
お昼を倹約し、溜めたお金でその映画を観に行った。
筋書きはまったく理解できなかったが、
筋書きなどはどうでも良かった。
思えば、ませたガキではあったな・・・。
その一年後だったと思うが、
同じ映画館の看板に、
美しい女性の顔が大きくペンキで描かれていた。
映画の題名は「モンパルナスの灯」。
その美しい女性の名前は「アヌーク・エーメ」だった。
お昼を倹約し、溜めたお金でその映画も観に行った。
昨晩、その「モンパルナスの灯」を借りてきて観る。
「モジリアーニ」を「ジェラール・フィリップ」、
その妻の「ジャンヌ」を「アヌーク・エーメ」が演じていた。
絵描きは金のために絵を描くのではない。
描かずにはいられないから、絵を描く・・・。
しかし、金がなければ生活は成り立たない。
身を削る思いで描いた絵が人に評価されない。
金が無い。
しかし、金のための絵は描きたくない・・・。
そんな絵描きの心の葛藤がよく描かれていた。
「モジリアーニ」は酒と麻薬と結核で死んでいったと記憶しているが、
酒と麻薬に溺れていく、その心情は痛いほど理解できる。
酒と麻薬の力を借りなければ絵が描けなかったのだろう・・・。
純粋な男だったのだろう、と思う。
「モジリアーニ」が病院で死んだ後、
「ジャンヌ」はアパートの窓から飛び降りて死ぬ。
辛い映画だったが、「アヌーク・エーメ」はやはり美しかった。
この映画を観た二年ほどの後、私は絵描きになる道を選んだ・・・。