■ モンパルナスの灯

aquio2007-08-27

昔、大阪の天王寺には数軒の映画館があった。
あれは、私が中学二年生の頃だったろうか・・・、
ある映画館の看板に、
美しい少女の顔が大きく描かれていたことがあった。
映画の題名は「芽ばえ」。
その少女の名前は「ジャクリーヌ・ササール」だった。
「なんて綺麗な女の子なんだろう・・・」、
と心を揺り動かされた私は、
お昼を倹約し、溜めたお金でその映画を観に行った。
筋書きはまったく理解できなかったが、
筋書きなどはどうでも良かった。
思えば、ませたガキではあったな・・・。
その一年後だったと思うが、
同じ映画館の看板に、
美しい女性の顔が大きくペンキで描かれていた。
映画の題名は「モンパルナスの灯」。
その美しい女性の名前は「アヌーク・エーメ」だった。
お昼を倹約し、溜めたお金でその映画も観に行った。
昨晩、その「モンパルナスの灯」を借りてきて観る。
「モジリアーニ」を「ジェラール・フィリップ」、
その妻の「ジャンヌ」を「アヌーク・エーメ」が演じていた。
絵描きは金のために絵を描くのではない。
描かずにはいられないから、絵を描く・・・。
しかし、金がなければ生活は成り立たない。
身を削る思いで描いた絵が人に評価されない。
金が無い。
しかし、金のための絵は描きたくない・・・。
そんな絵描きの心の葛藤がよく描かれていた。
「モジリアーニ」は酒と麻薬と結核で死んでいったと記憶しているが、
酒と麻薬に溺れていく、その心情は痛いほど理解できる。
酒と麻薬の力を借りなければ絵が描けなかったのだろう・・・。
純粋な男だったのだろう、と思う。
「モジリアーニ」が病院で死んだ後、
「ジャンヌ」はアパートの窓から飛び降りて死ぬ。
辛い映画だったが、「アヌーク・エーメ」はやはり美しかった。
この映画を観た二年ほどの後、私は絵描きになる道を選んだ・・・。