■ プライド
午前十一時三十八分発「のぞみ14号」に乗り、
新神戸から東京に向かう。
神田小川町における打ち合わせを済ませ、
午後五時、
六本木にて、某ビルのイベント企画担当者と会う。
会議にはT社のIとKも同席していた。
私はドイツ・エルツ地方で作られるあるモノについて、
その独占販売権を持っている。
そのモノについて、
「モノの詳細な写真が欲しい」
「モノの詳細な図面を送って欲しい」
「モノのプレートの上に載せる人形の写真が欲しい」、
とT社からは何度も問い合わせが寄せられていたのだが、
某ビルにおける会議に臨んで驚いた。
私が送った写真を基に、そのモノのイミテーションがすでに制作されていたのだ。
私が送った資料は、
イミテーションを作るために利用されていたのだった・・・。
「エルツ地方で作られる本物は値段が高い」
「T社であれば、同じようなモノがもっと安く作れる」、
という理屈のようであった・・・。
「イミテーションを作った場合、何か問題はありますでしょうか?」、
などとIとKはぬけぬけと質問してくる。
「問題があるかどうかではなく、それはプライドの問題でしょうね」
「有名な海外ブランドの鞄をコピーする、それと同じような行為でしょうね」
「日本人として、実に恥ずかしい行為ではないでしょうか」、
と答えたのだが、
IとKにとっては「蛙の面に小便」でしかなかった・・・。
この冬、某ビルではドイツのクリスマス・マーケットが再現されるらしい。
しかし、そこに出店する会社の名前を聞いて驚いた。
ドイツ製の木工機械を中国に送り、
中国で「made in Germany」の製品を作らせている会社ではないか・・・。
何もかも、とは言わないが、
イミテーションで塗り固められたクリスマス・マーケットである。
四十年前の私であれば、Iの顔にパンチをお見舞いしているところであった。
しかし、
仕事にプライドを持たない連中に関わらずに済んだのは幸いであったな。
某ビルの担当者に対し、
「来年はぜひエルツの本物を設置したいですね」、とIは言っておったが、
仮にそうなったとしても、誰がその世話などしてやるものか。
プライドを持ち合わせない奴らと誰が一緒に仕事するものか。