■ 老いらくの恋
三宮の東急ハンズに出かける。
ハンズの扉が開くまで三十分ほどある。
近くのカフェで時間をつぶすことにした。
このカフェの喫煙フロアは三階。
コーヒーをこぼさないよう、
足下に気をつけながら三階に上がる。
席に陣取り、周りを見渡して驚いた。
「私たちさっきまで愛し合っていたんだもんね」、
という雰囲気を漂わせたカップル、ばかりであった。
「アッ、そうか、今日は土曜日か!」
「昨日は金曜日だったんだよな」、
「で、昨日の夜は金曜日の夜だったんだね」
「なるほど、なるほど・・・」
などと、どうでもいいことを確認したりしてしまった。
あっちでもイチャイチャ、
こっちでもイチャイチャ、なのであった。
我が身にも憶えのあることなのだが、
「もう少し人目を憚ったらどうなんだよ」
「俺たちの若い頃はさぁ・・・」、
などとオジサンは少々のやっかみを交えながら、そう思うのであった。
そんな中に、サラリーマンらしき初老の男と、
五十代半ばと思しき女が二人掛けのソファーに座っていた。
男の右手は女の肩に回されている。
女の両手は男の左手を強く握りしめている。
この初老のカップルのイチャイチャ度は、
あれだね、群を抜いていたね・・・。
「もう少し人目を憚ったらどうなんだよ」
「洟垂れ小僧じゃあるまいし」
「場所をわきまえなさいよ、場所を」、
とオジサンは少々の怒りを覚えながら、そう思うのであった。
「これが人生最後の恋」、とそう思うからか、
老いらくの恋には歯止めがかからないという。
双方に自分を律する自信があるのなら、それはそれで結構なことなのだが、
このカップルを見る限りでは、
どうやら、男の方が女に「ぞっこん」、のようであった。
そのうち、このカップルはイチャイチャと身体を絡ませながら階段を降りていった。
ま、人ごとといえば人ごとなのだが、
今日は朝から気分の悪くなるものを見てしまった。
「山口瞳」じゃないけれど、
「露骨はやだね、露骨は・・・」、なのであった。
もう少し洗練された態度はとれないものなのだろうか・・・。