■ 香美薗
「さて、今夜はどこで何を食べようか」、
と思案していたら、
ビエンナーレの会場にT君が入ってくる。
入ってくるなり、
「あぁ、お腹空いた」
「晩ご飯ご馳走してください」、と言いやがる。
普通であれば、
「無礼者め」、と一刀両断に切り捨てるところだが、
どういうワケか、T君が言うと憎めない・・・。
で、抱えていた仕事をサッサと済ませ、
元町の「香美薗」に向かう。
汚れが隅々にまで行き届いているような店だが、
この店の中華は本当に美味しい。
私の知る限りにおいて、多分、神戸でも一二を争う店ではないだろうか。
店に入るなり、
「もう遅いから注文は一度にまとめて言うてや!」、とオバチャンが言う。
で、慌てて、麻婆豆腐、炒飯、ワンタン、烏賊の天婦羅、揚げ餃子、を注文する。
この店の炒飯は滅茶苦茶に美味いのだが、
その炒飯に麻婆豆腐をまぶして食べると、猶のこと美味さが増す。
炒飯を茶碗に盛り、麻婆豆腐の分量を加減しながら食べる。
烏賊の天婦羅の軟らかいことといったら・・・。
「時間はかまへんから、残さず食べて帰ってや!」、と先ほどのオバチャンが言う。
ちょっと注文しすぎたかもしれない・・・。
「う〜、苦しい」
「あぁ、美味い」、と言いながら一皿ずつ片付けていく。
食べている途中、店の掃除が始まる。
厨房の中でも後片付けが始まり、賄い料理を作る音が聞えてくる。
「もうちょっと待っててな」
「すぐ食べ終わるさかい」、とオバチャンに声をかける。
あれだね、こういう「裏」も「表」もない店における食事は、心から寛げるものだね。
どんなに食事を急がされても、それがちっとも嫌味に感じない。
大震災以降、この元町にも小奇麗な店が増えてきた。
しかし、どのように「表」を取り繕っても、
「裏」で何が行われているのか、「裏」でどのような会話が交わされているのか、
従業員の顔つき一つ、仕種一つで何もかもが見えてしまうものである・・・。
三十一日には、岡山からH君が手助けにやって来てくれるはず。
ボランティアのKさんにも大変お世話になった。
三十一日には、彼らのために「香美薗」で一席もうけることにしよう。
「香美薗」の炒飯と麻婆豆腐。
何度食べても、飽きるということがない。