■ 風の便り
今から三十二年前のこと。
仕事に行き詰まりを感じ、
青山通りをトボトボと歩いていた時、
青山三丁目の交差点でOさんとバッタリと出会うことがあった。
Oさんはそれまで勤めていた会社を辞められ、
新しく会社を立ち上げられたばかりの頃だった。
「久しぶりだね。、お茶でもどう」、と誘われ、
二人でコーヒーを飲んだことを、今も懐かしく思い出す。
その出会いをきっかけに、
私とOさんは急速に親しくなっていったのだが、
仕事の進め方、人との接し方、思考方法・・・等々、
Oさんには実に様々なコトを教えていただいた。
窮地を救っていただいたことも一度ならず、ある・・・。
Oさんには本当にお世話になった。
「影響を強く受けた人物は?」、
「人生における師は?」、と問われたら、
私は間違いなくOさんの名前を挙げることができる。
しかし、人命にかかわるようなある事件をきっかけに、
以後、私はOさんと連絡を取り合わなくなってしまった。
それから二十年という歳月が流れる。
Oさんとの間にはいろいろな出来事があった。
しかし、この歳になると楽しかったことばかりが思い出されてならない。
以前のように酒を酌み交わす機会はもうないのだろうか・・・、
と強くそう思うことがある・・・。
今日、そのOさんの近況を風の便りに聞く。
リタイアされたOさんは、ヨットで日本を一周していらっしゃるらしい。
その航海日誌もインターネット上に公開されているという。
キーワードとなる言葉を幾つか打ち込み、検索してみた。
コンピューターの画面に、昔のままのOさんの人懐っこい笑顔が現れた。
実に懐かしい。
あの青山三丁目の交差点におけるOさんとの出会いがなければ、今の私はなかったはず。
いつか機会があれば、是非お会いしたい・・・。
さて、明日からはドイツへ出張。
ミュンヘン、ドレスデン、ライプチヒ、ザイフェン、ベルリン、ポツダム・・・と回る予定。
帰国は十二月十日の午後。