■ マルタのきぶどう

aquio2008-01-10

あれは二週間ほど前のことだったか、
名古屋から帰ってくると、
机の上に細長い箱が一つ置かれていた。
箱には「マルタのきぶどう」と印刷されていた。
「Nさん(私のこと)に飲んでもらって」、
とKさんが持ってこられたものであった。
その日、HとYがアトリエにやって来る。
「貰い物やけど飲むか!?」、とグラスを三つ用意し、
夫々のグラスになみなみと葡萄ジュースを注いだ。
「それじゃぁお疲れ様」、と一気に口に流し込んだところ、
どうにも葡萄の味もしなければ、香りもしない・・・。
どちらかというと、「梅」のような味と香りがした。
「マルタで葡萄が採れるんやろか?」
「そら、マルタ・ワインがあるくらいやからね」
「マルタ・ワインって美味いん?」
「いや、めちゃめちゃ不味い!」
「そやけど、きっつい味のジュースやなぁ」
「酒みたいやね」
「葡萄ジュースっていうより、これ梅酒に近いで」、
などとチビチビ飲みながら話しているうち、Hの顔が赤らんできた。
どうにもおかしい。
瓶のラベルを仔細に見てみると、
そこには「梅酒・1995」、と書かれてた小さな付箋が貼ってあった。
「おい、これ梅酒やで」
「もう何でもええやんか、葡萄ジュースやと思て飲みいな」
「今まで葡萄ジュースやと思て飲んでたやろ」
「どこがマルタ島やねん」
「丸の中に田の字が書いてあるから『マルタ』やねんわ」、
などとワイワイ喋りながら、とうとう瓶を空にしてしまう。
Kさんには「美味しい梅酒を有り難うございました」、とお礼を述べたのだが、
今朝、そのKさんから「マルタのきぶどう」が届く。
箱の中には、「もっと大きな付箋をつけておくべきでした」
「ご迷惑をおかけしました」
「これは正真正銘の葡萄ジュースです」、と書かれた手紙が添えられていた。
梅を葡萄と間違ったことなど、Kさんには一言も喋った憶えがない。
はて、いったい誰が喋ったのだろうか。
誰が喋ったかは詮索しないが、
面白おかしく余計なことを喋るから、Kさんが余計な気を遣うことになる・・・。
「マルタのきぶどう」は実に濃厚で美味しいジュースであった。