■ 金の湯
昨日に引き続き、今日も寒かった。
午後六時、サッサと仕事を切り上げ、
パンツとシャツと手拭いを紙袋に放り込み、
有馬温泉の「金の湯」に出かける。
「今日は金の湯に行く」、と朝から決めていた。
アパートの風呂では、なかなか身体の芯まで温まらない。
湧き出た時には無色透明の湯だが、
鉄分を多く含んでいるため、
湯はアッと言う間に酸化し、茶色に変色してしまう。
その茶色に変色した湯の色を「金」に見立てたのだが、
平日ということもあってか、「金の湯」は驚くほど空いていた。
有馬はシーズン・オフの平日に限るね。
私の体色は浅黒いから、
茶色に変色した湯に身体を浮かべていると、
まるで、豚汁に浮かぶ牛蒡になったような気がする。
「俺が牛蒡なら、あの人は差し詰め豆腐といったところかな」、とか、
「これだけの具が入ってんねんから、湯にはええ出汁が出てるで」、とか、
「湯に七味唐辛子入れたら、もっと温まるんとちゃうん?」、とか、
「寒い日の豚汁は身体に沁みるね」、とか、
「そうや、今日はオバチャンの店で豚汁を食べよう」、とか、
阿呆なことを連想しながら身体を温める・・・。
浴槽に出たり入ったり、一時間ほどは過ごしただろう。
すっかり温まってしまった。
電動マッサージ機に百円也を投入し、背中の強張りをほぐす。
とても気持ちがいい。
地獄極楽などの存在は信じてもいないのだが、
ついつい、「う〜、極楽極楽」、などと呟いてしまう。
「金の湯」を出た後、
「豚汁、豚汁、豚汁、豚汁・・・」、と呪文のように口ずさみながら、
馴染みの食堂に出かけて、豚汁定食を注文する。
あれだね、寒い日は豚汁に限るね。