■ スタッドレス・タイヤ
今から三十年ほど前、
まだスタッドレス・タイヤなど存在しなかった時代、
アメリカの某タイヤ・メーカーから、
「ICE COMPOUND/アイス・コンパウンド」
という名前のタイヤが発売されたことがあった。
「雪道を走るために開発された新素材を使ったタイヤ」、
という触れ込みであった。
現在のスタッドレス・タイヤの先駆けとなる商品だった。
当時、長野県の白馬村に住んでいた私は、
早速その「アイス・コンパウンド・タイヤ」を購入した。
あれは十一月の下旬であったと記憶しているが、
友人のO君を助手席に乗せ、
白馬村から二十キロほど離れた信濃大町に出かけたことがあった。
時間は朝の十時ころではなかったか、と思う。
青木湖の少し手前、
佐野坂のトンネルに差し掛かる橋梁上で、
五台前を走っていた車がいきなりスピンを起し、橋桁に激突していった。
追突を逃れようと、後続車の列は次々とブレーキを踏んだのだが、
その急ブレーキがいけなかった。
五台の車が次々と玉突き衝突を起こしてしまい、
その五台の車の列に、私が最後に突っ込んでいった。
六台玉突き衝突・・・。
そこに至るまでの道路には何の異常もなかったのだが、
橋梁上の道路だけが薄っすらと凍結していたのだった。
目視では確認できないほどの薄氷だった。
幸い全員に大きな怪我はなかったが、
ま、警察は来るわ、救急車は来るわで、その後始末が大変だったな。
「雪道用のタイヤであっても過信は禁物」、
それがあの事故で学んだ教訓だった。
今朝、スタッドレス・タイヤを装着した車で岡山の職場に向かう。
ホイールはハブ・ボルトとナットで締め付けられているが、
気をつけていないと、
付け替えたばかりのホイールは、その締め付けが緩むことがある。
万一のことを考え、約八十キロのスピードを保ちながら中国道を西に向かう。
あの事故から三十年ほど経った。
スタッドレス・タイヤの性能には格段の進歩がみられるが、
はやり、過信は禁物である、と思う。
ブレーキを踏まず、エンジン・ブレーキを多用しながら車を走らせる。