■ 反塊丹
新潟から神戸に帰る途中、富山駅で下車し、
義弟のM君が経営するイタリア・レストランに向かう。
M君の奥さんは私の妻の妹にあたる。
現在、私の息子のSもイタリア・レストランを経営しているが、
SはこのM君のレストランで七年間の修行を積んだ。
反りが合わないというか、
SにとってM君は天敵のような存在であったが、
嫌がるSを車に無理やり乗せ、
「息子を頼む」、とM君のレストランに放り込んだのは、
今から十二年ほど前の冬のことだった・・・。
それから七年、
言葉遣いから行儀作法に至るまで、
SはM君から徹底的にしごかれて神戸に帰ってきた。
Sにとっても、私にとっても、M君は大の恩人なのである。
久しぶりの富山。
町の佇まいは昔とそうは違って見えない。
適当に田舎、適当に都会、という佇まいに好感が持てる。
M君と会うのも本当に久しぶり。
お互い髪に白いものが混じる歳になった・・・。
美味い石鯛のソテーに舌鼓を打ちながら、お互いの近況を確かめ合う。
列車の時刻が迫ってきた。
別れの挨拶もそこそこに、タクシーで富山駅に向かう。
駅の売店で、腹痛に効く「反塊丹」等を購入し、職場への土産とする。
子どもの頃、一年に一度か二度であったと思うが、
我が家にも富山の薬売りが訪れていた。
薬売りがくれる「紙風船」が嬉しかった・・・。
薬売りがやって来ると、
「越中富山の反塊丹、鼻くそ丸めて万金丹」、などと子どもたちは囃したてたものだった。
妻にその話をすると、
妻が住んでいた町内では、「越中富山の万金丹、鼻くそ丸めて黒仁丹」、であったらしい。
鼻くそが黒い・・・?
妻は空気の汚れた町に住んでいたのだろうか。