■ タイミング
近頃とんと物覚えが悪くなってしまった。
親しい間柄にでもならない限り、
名前はおろか、
その人の顔すら忘れてしまっていることがある。
アトリエのガラス扉の向こう側から、
若い女性が私に向かって会釈を寄こす。
「はて、誰やったかなぁ・・・?」、と訝しんでいたら、
彼女は中に入りたいような仕種を見せるではないか。
若い女性はいつでも大歓迎であるから、
私の方から扉を開けに行くことにした。
初対面の女性であった。
話を伺うところによると、
現在は京都のR大学で経済を学ぶ学生だが、
手仕事の世界で働きたいという希望があるらしい。
以前は「皮」の世界に飛び込んだこともあるらしいが、
どうにも馴染めなかった、という。
で、木のおもちゃの世界で働きたい、と仰るのだ。
過日、「週末の探検家」という番組で
私の仕事ぶりを紹介していただいたことがあったが、
どうやら、その番組の内容に大きな影響を受けたらしい・・・。
しかし、あの番組で紹介されたことは私や私の職場の一部ではあるが、
全部では、決してない。
「勘違いされているのではないか!?」、と問いただしたが、
彼女の決意はとても固いものがあった。
彼女はR大学の四年生であるが、
学業を途中で放り出してでも、木の仕事に就きたいと言う。
「そこまで仰るのなら」、ということで、
この二十二日から出勤していただくことにした。
彼女の熱意に絆された、ということになるが、
どうも、彼女の熱意は本物であるような気がするなぁ・・・。
今、新しいショップを西宮に出すという計画が進んでいる。
そのため、職場では新しいスタッフを募集しようとしているところであった。
なんとタイミングのいいことか。
すでにほとんどの単位を取得しているとかで、
大学には週に一度ほど通えばいい、ということになっているらしい。