■ 眼鏡考・その2
「俺たちって眼鏡のエキスパートだもんね」
「俺たちってセンスがいいんだもんね」
「センスのいい眼鏡を売っているんだもんね」
「センスのいい人が買いにくる店だもんね」
「ここはオッサンの来る店じゃぁないんだぜぇ」と、
店員たちはあからさまに嫌味な態度を見せていた。
去年の夏だったと思う。
神戸三宮にある眼鏡屋での出来事。
「ケッ、洟垂れ小僧めが!」
「お前らが生まれる以前に俺は眼鏡業界にいたんだぜぇ」
「なんだよ、その感じの悪い目つきは?」
「眼が悪いんじゃないの!?」
「赤いフレームの眼鏡かぁ、センス悪いねぇ!」
「目立てばいいってもんじゃぁないんだぜぇ!」
そう捲し立てたかったが、
私もいい歳をした大人だから、
彼らの視線には気づかぬフリをしながら、
店内に並べられた眼鏡を静かに物色していた。
なかなかに品揃えがよろしい。
店員たちの態度が惜しまれる。
作業用の新しい「リーディング・グラス」、
つまり、「老眼鏡」が欲しかったのだ。
「30〜60センチのところにレンズの焦点を合わせることができるか?」
という私の問に、
店員は「はぁ?」と聞き返してきた。
こりゃぁ駄目だわ・・・。
「検眼」は医療行為である。
もともと検眼は眼科医だけに許された医療行為。
眼科医の数が少ないから、
その医療行為を眼鏡屋が代行しているのだ。
間違った検眼をされ、
そのデータに基づいて眼鏡を作られでもした日にやぁ、
身体のあちこちが変調を来たす。
眼鏡はお洒落の小道具であるとともに、医療器具でもある。
カッコつけただけの眼鏡屋のなんと多いことか・・・。
視力矯正の基礎知識も無ければ、
レンズの成型も陸にできない店員たちが医療器具を売っている。