■ 文鎮

aquio2009-01-03

刀鍛冶でいらっしゃるМさんのお嬢さんにお会いしたのは、
まだ彼女が小学五年生の時であった。
次にお会いしたのは、
彼女が大学受験を控えていた時であるから、
十八歳、ということになるか。
そういえば、五年前にも一度お会いしているな。
昨年末、そのお嬢さんが、
ご亭主とともに私のアトリエを訪れてくださったのだが、
今朝、彼女からズシリと重い封書が届く。
封を開いてみると、中から一つの文鎮が出てきた。
「鍛鐵降魔」と刻印された文鎮。
「降魔」には「魔物を退けて悟りを得る」というような意味があるから、
「鍛鐵降魔」とは、
「魔物を退けて悟りを得るための鉄を鍛える」、という意味になるのかな!?
添えられていた手紙には、
「主人は父の跡を継いで刀鍛冶になることを決意してくれました」
「しかし、まだまだ切れる刃物を鍛えるまでには至りません」
「主人の作った文鎮をお贈りいたします」、
と書かれていた。
昔、彼女のお父さんから一振りのナイフを頂戴したことがある。
「Nさん(私のこと)、貴方にナイフをプレゼントするよ」、
と一振りのナイフを頂戴したのだが、
「これが私の自信作」、と言って見せられたナイフの素晴らしかったことといったら・・・。
見せられたナイフと頂戴したナイフを見比べてみると、
どうしても頂戴したナイフが見劣りしてしまう。
その切れ味を指の腹に当てたりして試しているうち、
「解った、解った、もうそっちのいい方のナイフをあげるわ」
「ナイフも解る人に使ってもろうたら本望やろ」、
と、そのМさん自信作のナイフをちゃっかり頂いてしまったことがあった。
古式の製法にのっとって鍛えられたナイフ。
あれから十五年ほどは経つだろうか、
頂戴したナイフは今も大事に使わせていただいている。
もっとも、研ぎを繰り返したせいですっかり短くなってしまったが・・・。