■ 真珠会館
真珠会館から依頼のあったからくりの制作に取り掛かる。
真珠会館は、
あのルミナリエの最終地点にあるレトロなビルだが、
ルミナリエの期間中は、
訪れる来館者の数も半端じゃないほど多いという。
「真珠は人魚の涙」
「真珠は月の雫」、
その二つをコンセプトにからくりを作ることになっていたが、
手伝ってくれていたT君がいきなりストライキに入ってしまう。
「どう頑張っても期日には間に合いそうにもない」
「身体に鞭打つような仕事はしたくない」
「仕事は自分のペースで進めていきたい」、
ということであるらしい・・・。
私は彼のライフ・スタイルに口を挿むつもりなど毛頭ない。
問題は「請けた仕事を途中で投げ出すか、投げ出さないか」なのであり、
依頼主に対する「信義」の問題であり、
彼のライフ・スタイルの問題ではないのであるね。
期日までに仕上げられる技法や、
考えられる問題点と解決法を示しながらT君を説得する。
ま、制作の現場ではいろいろなコトが起きるものである・・・。
念のため、半日の猶予をいただけるよう、依頼主のSさんに連絡する。
快諾を得たことで、気分的に多少の余裕ができる。
しかし、納期までには三日半しか残されていないから、
作業は迷うことなく進めなくてはならない。
誰一人無駄口を利かないから、作業は粛々と進む・・・。
私は六体の人魚の色塗りに専念することにしたが、
なかなか思ったような色が表現できない。
ラフ・スケッチで表現した色とは微妙に違う。
青に紫を加えたり、それにまた群青を加えたりと、試行錯誤を続ける。
深夜、人魚の尾の部分の色が決まる。
色が決まれば、あとは何度か塗り重ねていくだけのこと。
ひょっとしたら、今夜も寝れないかもしれないな。