■ 徹夜/その3
岡山の職場のH君に連絡をとる。
「明日と明後日だけど時間はとれない?」
「Nさん、また作品の納期でも迫っているんですか?」
「エッ、なんで分かったの?」
「僕に電話してくる時はいつもそうじゃないですか!」
「あれっ、そうだったっけ?」
それでもH君は快く神戸まで駆けつけてきてくれた。
五日ほど前に徹夜したばかりだというのに、
昨夜もとうとう徹夜になってしまった・・・。
しかし、作品はとうとう完成しなかった。
未完成のまま、作品を車に積んでアトリエを出発。
Tさんの車をお借りして大阪の豊中市に向かう。
お客様に納期に間に合わなかったことを謝罪するが、
「期待していた以上の出来栄えです」
「納期のことは気にしないでください」
「それよりも貴方の納得のいく作品を作ってください」と告げられる。
とても嬉しい・・・。
車を走らせてアトリエに戻る。
H君はまだ作業を続けてくれていた。
H君に「花居森」の鍋料理をご馳走することにした。
この店の軍鶏肉を使った鍋は本当に美味しい。
暖かい鍋料理を二人でつつく。
お腹の皮が張ってくると、瞼の皮が緩んでくる。
今夜は私のアパートに泊まってもらうことにした。
アパートに帰り、炬燵に脚を入れてビールを飲む。
睡魔が襲ってくる・・・・・。
三十三時間あまり働き続けていたことになる。
さすがに疲れた。
明日は岡山の職場に出勤しなければならない。
明朝は二台の車で移動すればいいだろう。
ふと、右手に痛みを感じる。
親指と人差し指が尋常ではないほどに腫れあがっていた。
指先の皮がめくれている。
人差し指と中指の爪が欠けている。
小さな切り傷や擦り傷が何ヶ所かにある。
コーヒーを入れたカップが持てないほど握力が低下している・・・。
もうこれ以上は仕事をするな・・・というサインなのだろう。