■ 特別転回承認
早朝、中国道を米子に向かって走る。
美作インターを抜けた辺りから急に霧が濃くなってきた。
ミルクを流したかのような濃密な霧・・・。
四十メートルほど先の景色が見えない。
車のスピードを六十キロまで落とす。
霧の中を走っていると、
異次元の世界に迷いこんだかのような錯覚を覚える。
このままどこかに連れ去られていくかのような感覚。
とても静か・・・。
聞えるてくるのは車のエンジン音だけ。
「栄光のグループ・サウンズ」のカセットをかける。
三十五年ほど前の萩原健一が「純愛」を歌っている。
「かまやつひろし」が「バン・バン・バン」を、
「堺正章」が「あの時君は若かった」を歌っている。
「あの時君は若かった わかってほしい僕の心を・・・・」
「そうだよ、お前も俺も若かったよなぁ」と、
歌を口ずさんでいるうち、
米子道への進入路をうっかり通り過ぎてしまった。
アレアレ・・・・。
仕方がないから、次の落合インターまで車を走らせる。
落合の料金所で、
「すみません、米子道に入り損ねました」と係員の方に声をかける。
「じゃぁ、特別転回承認のハンコを押しますからUターンしてください」
「すみませ〜ん」
料金ゲートを出て、車を大きくターンさせて料金ゲートに向かう。
赤い「特別転回承認」のハンコが押された元のチケットを返してもらう。
「うっかり見過ごされたんですか?」
「いえ、大きな声で歌を歌っているうちに通り過ぎてしまったんです・・・」
「アハハ・・・、ま、霧が濃いからお気をつけて」
「ありがとうございます、お手数をおかけしました」
と、まあ、
この「特別回転承認」のハンコが押されたチケットを持っていると、
超過した高速道路料金は徴収されないで済む・・・。
過去にも同じようなミスを何度か犯しているが、
自分のミスを認めて正直に申し出ればいいのだ。
解決方法は先方が用意してくれていることも、ある。
「特別回転承認」のハンコを今までに何度いただいたことになるのだろうか。
ひょっとしたら、「ボケ」が始まっているのかもしれない・・・。
どうにも注意力が散漫になってきているような気がする。