■ バナナ

aquio2005-12-05

「おぅ、単身赴任は大変だなぁ」
「ちゃんと果物を食べてるかぁ?」と、
Yさんがバナナを山ほど持ってきてくださる。
気さくでいい人なんだが、
Yさんは「程度」というものを知らない。
一日一本食べるとしても、
四十日はかかってしまうほどの量。
どうしよう・・・・?
昔、私が小学生であった頃、
私の家の近くにNちゃんという男の子が住んでいた。
私とNちゃんは大の仲良しだった。
私とNちゃんは同じ中学校に進学することになった。
私はいつもNちゃんを誘って学校に通っていたが、
Nチャンは大変な「寝坊助」だった。
いつも私はNちゃんの家の玄関に座り、
彼の支度ができるのを待っていた・・・・。
ある日、彼のお母さんが、
「Aちゃん(私のこと)、いつもいつも待たせてごめんね」と、
一本のバナナを手渡してくれた・・・・。
今では信じられないことだが、
当時、「バナナ」はとても高価な果物であった。
Nちゃんの家は大金持ちだった。
次の日も、その次の日も、
Nちゃんを迎えにいく度に、彼のお母さんは私に一本のバナナをくれた。
私はそれを密かな楽しみにしていたが、
いつの間にか、
バナナのためにNちゃんを迎えにいくようになってしまっていた・・・。
そのことに気付いた時、
その時から私はNちゃんを迎えに行かなくなってしまった。
親しかった彼との関係も、そこで終わってしまったのだった・・・。
それから二十年、
幼い子どもを残して、Nちゃんは三十三歳の時にこの世を去った。
胃癌だった。
気付いた時には手遅れであったらしい。
彼の奥さんもNちゃんの後を追うようにしてこの世を去った。
乳癌だったと聞いている・・・。
Nちゃんの子どもは立派に成長し、今は医者になっている。
バナナを食べる度にNちゃんのことを思い出す・・・。