■ バナナ
「おぅ、単身赴任は大変だなぁ」
「ちゃんと果物を食べてるかぁ?」と、
Yさんがバナナを山ほど持ってきてくださる。
気さくでいい人なんだが、
Yさんは「程度」というものを知らない。
一日一本食べるとしても、
四十日はかかってしまうほどの量。
どうしよう・・・・?
昔、私が小学生であった頃、
私の家の近くにNちゃんという男の子が住んでいた。
私とNちゃんは大の仲良しだった。
私とNちゃんは同じ中学校に進学することになった。
私はいつもNちゃんを誘って学校に通っていたが、
Nチャンは大変な「寝坊助」だった。
いつも私はNちゃんの家の玄関に座り、
彼の支度ができるのを待っていた・・・・。
ある日、彼のお母さんが、
「Aちゃん(私のこと)、いつもいつも待たせてごめんね」と、
一本のバナナを手渡してくれた・・・・。
今では信じられないことだが、
当時、「バナナ」はとても高価な果物であった。
Nちゃんの家は大金持ちだった。
次の日も、その次の日も、
Nちゃんを迎えにいく度に、彼のお母さんは私に一本のバナナをくれた。
私はそれを密かな楽しみにしていたが、
いつの間にか、
バナナのためにNちゃんを迎えにいくようになってしまっていた・・・。
そのことに気付いた時、
その時から私はNちゃんを迎えに行かなくなってしまった。
親しかった彼との関係も、そこで終わってしまったのだった・・・。
それから二十年、
幼い子どもを残して、Nちゃんは三十三歳の時にこの世を去った。
胃癌だった。
気付いた時には手遅れであったらしい。
彼の奥さんもNちゃんの後を追うようにしてこの世を去った。
乳癌だったと聞いている・・・。
Nちゃんの子どもは立派に成長し、今は医者になっている。
バナナを食べる度にNちゃんのことを思い出す・・・。