■ キスの煮付け

aquio2006-01-29

アパートに帰ると、
妻と母がプリプリと怒っていた。
彼女たちが怒っている原因が解らない。
「何をそんなに怒っているの?」と訊くと、
「胸に手をあててごらん」と言われる。
胸に手をあててみたが、
思い当たることが多すぎて、どれだかよく判らない。
こんな時はとぼけるに限る。
「アイスクリームを全部食べてしまったこと?」
「違う!」
「なんだかよく分からんけど・・・」
「今日、お前は何時に帰ってくると言った?」
「え〜っと、七時って言ったかなぁ・・・」
「今、何時?」
「今?今は八時を少し過ぎたあたりかな」
「料理がすっかり冷めてしまったじゃないの!」
あぁよかった、そんなことだったのか。
何がばれたのかと、ドキドキしてしまったではないか・・・。
こんな時は素直に謝るに限る。
「お前がキスの煮付けを食べたいって言うから作っておいたのに!」
「すみません・・・」
「こんなに冷えてしまって!」
「すみません・・・」
「温かいうちに食べればもっと美味しいのに!」
「すみません・・・」
ただただ嵐が過ぎ去るのを願うだけであった・・・。
こんな時は余計なことを言わないに限る。
食卓の上に気まずい空気が流れる。
「食事はもっとお話でもしながら楽しくしたいわよねぇ」と、母が妻に言っている。
「オイオイ、食事は静かに行儀よくするものだと、
 子どもの頃に俺をそう躾たのはアンタじゃなかったのかよ!?」、と言いかけたが、
こんな時は逆鱗に触れるような言動は慎まなければならない。
ま、このようにして我が家の夜は静かに過ぎていくのであった。