■ 軍鶏鍋
Yさんと、その息子のJ君とT君、
そして私の四人で軍鶏鍋を囲む。
奥さんは風邪をひいて寝込んでいるらしい。
「今夜は俺がもつよ」とYさんが言う。
遠慮なくご馳走になることにした。
どうやら私に相談事があるような・・・。
まずはビールで乾杯。
J君とT君の食べることといったら、
アッという間に四人前の軍鶏がなくなる。
腹が一杯になったところで本題に入る。
どうやら、
T君は私の仕事を覚えたいという希望を持っているらしい。
「本気?」と訊くと、「本気!」という返事。
からくり人形の制作で飯を食っていきたいと言う。
私の技術は私だけのものである。
しかし、
それを棺桶の中に持ち込むわけにもいかない。
継承できるものであれば継承していっていただきたい。
私に出来ることであれば何でもしたいと思うが、
今の私にはそのことに割く時間がない。
一日が三十六時間であれば・・・。
T君に「通信教育方式」を提案する。
まず、簡単なからくりの図面とサンプルをT君に送る。
T君は図面とサンプルを見ながら制作に取り組む。
出来上がった作品に私が批評を加える。
これを繰り返せば、ま、なんとかモノにはなるのではないだろうか・・・。
英会話教室がその好例だろう。
教室に通えば英話が喋れるようになるとは限らない。
努力をしなければ英語は喋れない。
結局は自分で努力するしかないのだ・・・。
伸びる人間は自分で自分を伸ばす。
酔いを醒ますため少し歩くことにした。
深い霧の中をアパートまで歩いて帰る。
髪の毛がしっとりと湿ってくる。
なんだか気分がいい。