■ 本気

aquio2006-03-04

T君がアトリエを去ることになった。
この春から職業訓練校に通うらしい。
「Nさんが仕事を教えてくれないから」、
それがアトリエを去っていく理由であるらしい。
Nさんというのは私のことである。
私のアトリエには、
機械も工具も材料も過不足なく揃っている。
それらは自由に使ってよいと伝えておいた。
アトリエの中には私の作品がゴロゴロと転がっている。
それらの図面もほとんど揃っている。
制作にかける時間もたっぷりとあったはず。
いったい何が不満であったのだろう・・・。
手取り足取り一から教えてもらいたいと願うなら、
月謝を払って学校に通うしかないではないか。
そういう意味で、職業訓練校に通うという彼の判断は正しい。
制作の現場において、
弟子にイロハを教る時間は親方には無い。
弟子は親方のやることを見ながら憶えていくしかない。
「描きたいという衝動につき動かされて絵描きは絵を描く」
「書きたいという衝動につき動かされて詩人は詩を書く」と、
そう私は昨年の七月二十二日の日記に書いた。
不足していたものがあるとすれば、
それはT君の心と感覚にあったのではないだろうか・・・。
身体の中から湧き上がってくるもの、
抑えようとして抑えきれない心と感覚が彼には無かったように思う。
私は今年で還暦を迎える。
残された時間もそうは多くないだろう。
「本気」になれない人間に私の時間を割くことは、
もうこれで止めておこうと思う・・・・。