■ 馬子にも衣装
息子Sの就職が決まる。
東京に本社がある企業。
その大阪支社に勤務することが決まったらしい。
息子に二着のスーツをプレゼントする。
コーデュロイのスーツと、
薄手のフランネルのスーツ。
表参道にあったメンズ・ショップで購入したもの。
買ったのは二十五年ほど前のことだが、
袖に手を通した記憶がほとんどない。
二着ともほとんど新品。
これらのスーツを買った時、Sはまだ生まれていなかった。
体形が似通っているから寸法もぴたりと合う。
「ネクタイはないの?」と言うから、
ニット・タイを二本と、
レジメンタル・ストライプのタイを一本おまけにつけてやる。
馬子にも衣装というが、
なんとなく顔が引き締まって見えるから不思議。
しかし、
身体の動きがどことなくギクシャクしているように見える。
どことなく可笑しい。
しかし、私も四十年前にはこうであった。
そのうち、息子も一端の顔をして街を歩くようになるのだろう・・・。
今月から大阪での一人暮らしが始まる。
妻は「独りで大丈夫かしら?」としきりに心配しているが、
なに、息子は妻よりはるかにしっかりしている。
勤務先は「堂島アバンザ」の中にあるらしい。
知人が経営する寿司屋のすぐ近く。
たまには美味い寿司でも食べさせてやろう。
美味しいエスプレッソを飲ませてくれる店のすぐ近く。
たまにはコーヒーを飲みながら語り合ってみることにしよう。