■ 古巣

aquio2006-05-01

大型の帯鋸機を使わせていただくため、
家具作家のN君とM君の工房を訪れる。
この工房が建設されたのは平成二年の六月。
つい四年前まで、
私もこの工房の一室をアトリエとして使っていた。
工房の片隅には、
私が使っていた工具や材料がまだ残されていた。
懐かしい古巣・・・・。
二人がここに工房を構えたのは平成五年の夏。
あれから十三年の歳月が流れた・・・。
あの頃、二人は大手の家具メーカーに勤務していた。
ベニヤに銘木の薄い板を貼り付け、
本物の無垢板を使ったように見せかけた家具、
いわゆる「フラッシュ構造」の家具を作るメーカーに勤務していた。
何物にも「経年変化」というものがある。
年月を経るとともに、
家具にはそれを使用する家族や店舗の年輪が刻まれる。
家具には家族や店舗の歴史や思い出といったものが刻まれる。
家具についた傷や汚れが思い出となっていく。
それもまた「経年変化」と言えるだろう。
しかし、フラッシュ構造の家具に年輪は刻まれない。
古くなれば新しいモノと交換されるだけ・・・。
「粗大ゴミとして捨てられるような家具は作りたくない」
「それは環境の破壊につながっているのではないか」
「本物の家具を作りたい・・・」
そんな希望を抱えて二人はH村に引っ越してきたのだった。
あれから十三年。
二人は少しは名の知られる家具作家に成長した。
昔話に花が咲く。
今日は一日中制作に没頭するつもりであったが、
ほとんど何も出来なかった・・・・。
N君が植えた「雪柳」は大きく育っていた。