■ シャンペン
今日はいい一日だった。
天気も良かった。
めったに無いことだが、
何のトラブルもなく仕事もすべて片付いた。
馴染みのカフェで簡単な夕食を済ませる。
馴染みの酒屋に出かけ、
ハーフ・ボトルの「ドン・ペリニョン」を買う。
ついでに一個のシャンペン・グラスも買う。
冷蔵庫からベーコンを取り出し、
分厚く切ってソテーする。
誰もいない部屋で、
今日一日を振り返って乾杯する。
独りぼっちだが、寂寞感は、まったくない。
独りでいることに慣れてしまったのか、
それとも寂しさを感じなくなってしまったのか・・・。
友人知人の数は多いが、
振り返ってみれば、
子どもの頃から独りで遊んでいることの方が多かったように思う。
「酒は静かにのむべかりけり」と、
そう詠んだのは「若山牧水」であった。
仲間や女と飲む酒もいいが、
独りで飲む酒というのも、なかなかにいい。
友人であったKとHのことを不意に思い出す。
Kは五年前の五月五日に死んだ。
胃癌だった。
Hは六年前の七月七日に死んだ。
腎臓癌であった。
二人とも苦しみぬいて死んでいった・・・。
五月五日と七月七日。
私は六月六日に死ぬことにしよう。
酔いが回った頭でそんなことを考える。
寂寞感は無いとはいえ、
独りで飲む酒は過去を思い出させてしまう・・・。