■ 山の上ホテル
神田駿河台の「山の上ホテル」に泊まる。
部屋で寛いでいると、
控えめなノックの音が聞えた。
扉を開けると、
トレーを両手に持った女の子が立っていた。
トレーの上には熱いお茶と冷えた杏仁豆腐。
宿泊客へのサービスだという。
杏仁豆腐をいただきながら、
「ラインフェルデン」を訪れた時のことを思い出していた。
「ラインフェルデン」はバーゼル近郊の小さな町。
宿は「EDEN」という名の小さなホテルだった。
荷を置き、散歩から戻ってくると、
部屋のテーブルの上には冷えた一房の葡萄が置かれていた。
皿には、「お召し上がりください」と書かれたカードが添えられていた。
白い壁、白い窓枠、白いカーテン、白いベッド・カバー、
白いテーブル、白い椅子・・・。
すべてが白で統一された部屋。
その白い部屋の白いテーブルの上に、
薄緑色の葡萄が白い皿に載せられて置かれていた。
「うわぁ、やられたぁ・・・」
それがその時の私の感想であった。
なんてスマートで格好いいのだろうか・・・。
その一件だけで、
私はすっかり「EDEN」のもてなしに魅せられてしまった。
「EDEN」ほど格好は良くないが、
いつ泊まっても、
「山の上ホテル」には「EDEN」と同質のホスピタリティを感じる。
デザイナーズ・ホテルと言うのだろうか、
格好ばかりつけているホテルが多い中、
「山の上ホテル」のもてなしには、いつも経営者の哲学を感じる。