■ お絵描き
九人の子どもたちと絵を描く。
B子ちゃんは小学三年生の女の子。
九人のメンバーの中でも一番小柄な女の子。
どうやら、
B子ちゃんは絵を描くことに自信がない様子。
「うち、絵下手やから」、と下を向いて呟いている。
絵を描かせてみると、確かに線がぎこちない。
少し絵に自信のあるT男が、
「B子は絵描くの下手くそやなぁ」、とからかう。
しばらくすると、
仲間はずれになったB子ちゃんは鬼の絵を描きだした。
「何の絵?」、と訊くと、
「桃太郎のお話に出てくる鬼」、と答える。
その自由闊達な線といったら・・・。
「B子、お前めちゃめちゃ絵上手いやんか」
「そうかぁ、鬼かぁ、もっと描いてみてくれへんか」
「おっちゃん、もっとB子の絵観てみたいわ」、とおだてる。
いったい誰がこの子の絵が下手くそだと決め付けたのだろう。
下手だと決め付けられていたからこそ、
その脳と右手が萎縮してしまっていたのだろう・・・。
桃太郎にやっつけられて眼を回してしまった赤鬼、
風邪をひいて洟を垂らしている青鬼、
髪に白髪が混じった鬼の親分・・・。
子どもが子どもである時代にしか描けない絵が次々に生まれる。
実に素晴らしい。
絵をダンボールに貼り付け、お面を作って遊ぶ。
T男の描く絵が色褪せて見えてくる。
国語や算数のテストと違い、
絵にははっきりとした点数がつけにくいものである。
テストの点数のいい子だけが頭のいい子なのでは、決してない。
対象となるモノの輪郭が正確に捉えられている絵。
一枚の紙に、対象となるモノの輪郭がきちんと収められている絵。
どうやら、それらが「上手な絵」ということのようであるが、
絵画は感性の世界に属する作業である。
感性を持ち合わせない大人が、感性を持ち合わせた子どもの絵を評価する・・・。
親や教師は感性豊な子に育って欲しいと願いながら、
実は、その感性の芽を摘み取っているのではないだろうか。