■ めだまやきくん
独り住まいを始めてから三年が過ぎようとしている。
単身赴任は気楽でいいのだが、
鍋釜をはじめ、
生活するための雑器がいろいろと要る。
岡山と神戸、所帯が二つあるということは、
何かと不経済なことではある・・・。
午後二時、東急ハンズでMさんと待ち合わせる。
約束の時間まで小一時間ある。
それまで調理器具の売り場を見て回ることにした。
調理器具の売り場を見て回るのはとても楽しい。
売り場の片隅に、
「めだまやきくん」という名の商品が置かれていた。
説明書を読んでみると、
窪んだところに卵を入れ、電子レンジで一分ほど過熱すると、
簡単に「目玉焼き」が出来る・・・、と書かれていた。
油は不要、とも書かれている。
「スグレモノではないか!」、と思わず衝動買いをしてしまった。
アパートに帰り、「めだまやきくん」のテストを行う。
窪んだところに卵を入れ、爪楊枝で黄身に小さな穴を開ける。
穴を開けておかなければ、黄身が破裂するらしい。
「油は不要」と書かれていたが、バターを一欠片加えてみた。
塩と胡椒をふりかけ、電子レンジでチンする。
過熱時間は約一分。
恐る恐る蓋を開けてみると、立派な目玉焼きが出来上がっていた。
皿に盛り付け、一つはそのまま、もう一つには醤油をかけて食べてみる。
フライパンでじっくりと焼いた目玉焼きの方がはるかに美味い。
目玉焼きというより、茹で卵に近い食感があるな。
黄身が固すぎる。
過熱しすぎたのかもしれない。
説明書を読み返してみると、
「お好みに応じて過熱時間を調整してください」、と書かれていた。
次回は四十秒にタイマーをセットしてみよう。
「目玉焼き」といえば、
あれは「高倉健」主演の「居酒屋兆治」だったと思うが、
その映画の中に、あの「大滝秀治」が小学校の校長先生の役で出ていた。
いいねぇ、「大滝秀治」は・・・。
この校長は教え子と所帯を持っているのだが、二人は親子ほどにも歳が離れている。
校長の朝食といえば、パンと紅茶と目玉焼きが一つ。
それが日課のような朝食であったが、目玉焼きが二つ出る時がたまに、ある。
それは「今夜はお願い・・・」、という奥方からのサインなのであるが、
親子ほどにも歳が離れているため、
校長は奥方の要求になかなか応えられないでいる・・・。
ま、そんな内容のシーンがあった。
今夜は目玉焼きを二つも食べてしまった。
しかし、「今夜はお願い」、とは誰も言ってくれない。
単身赴任のオッサンの夜は粛々と更けていくのであった・・・。