■ Heiko Hillig・その2
午後四時、
通訳のTさんと「ヒリック」さんを車にお乗せし、
神戸の職場に向かう。
彼は植物にとても興味があるらしく、
日本とドイツにおける植生の違いについて、
おもちゃの加工に適した材木について、
車窓から見える木々について、
様々な疑問を投げかけてくる。
中には専門的な用語も含まれているから、
通訳のTさんは困っておったが、
ま、なんとか意味は通じたようであった。
「ヒリック」さんの身長は一メートル八十センチを超える。
また、なかなかの男前である。
職員が「ヒリック」さんを連れて職場を案内している時、
どこで噂を聞きつけたのか、
近所のパン屋のオバサンがやってくる。
「Nさん、イケメンの外人さんってどこにいるん?」
Nさんというのは私のことである。
「今、Fが館内を案内してるわ」
「なんや、せっかく来たったのに留守かいな!?」
「来たったって、誰があんたに来てくれって言うた?」
「誰も来いとは言えへんかったけどな・・・」
「もうすぐあの外人さんは帰ってくるで」
「私も忙しいからすぐ帰らなあかんねん」
「俺の顔で我慢しときいな」
「Nさんのどこがイケメンやねんな!?」
「俺もなかなかのもんやと思うけどなぁ」
「あほくさ、鏡で顔見直して出直し!」
このオバサンはいつも憎まれ口をたたきにやって来る。
けったいなオバサンではあるが、妙に憎めない・・・。
息子の店でイタリア料理を召し上がっていただいた後、
午後九時、神戸の街に向かって出発する。
今夜はポートピア・ホテルに部屋を予約してあった。
別れ際、「貴方の職場をもう一度見てみたい」、というリクエストがある。
明日の朝、九時半に迎えに来ることを約束してお別れする。
昨日と今日、その走行距離は四百キロを超えた。
疲れを覚え、馴染みの「MOKUBA」に向かう。
「MOKUBA」の店内は満席であった。
店主のKさんは、店が忙しくなると機嫌が悪い。
阪神タイガースが試合に負けたことも、機嫌を一層悪くしていた。
けったいな店である・・・。