■ 義母の引越し

aquio2007-10-24

義母は今年で九十二歳になる。
足腰はまだまだ丈夫で、
スーパー・マーケットの階段など、
スタスタスタ・・・と駆け上がってしまう。
達者な婆さんではある。
独り暮らしであるから、
調理器具などはすべて電化にしておいたのだが、
とうとう、頭に霞がかかるようになってきた・・・。
とても一人でおいてはいけない。
しばらくの間は義妹が面倒をみる、ということになり、
今日、その引越しを行う。
それにしても愛らしい婆さんではあるね。
もともと童女のような性格の女性であったが、
加齢とともに、ますますその性格に拍車がかかったように思える。
義母の人生は波乱万丈であったが、
「私、とっても幸せ」、それが義母の口癖なのである・・・。
どんなに些細なことであっても、
受けた恩や親切に対し、義母は決して感謝の念を忘れない。
また、彼女はいつも笑顔を絶やさない。
ボケが始まったとはいえ、
義母のように愛らしい婆さんであれば、我が家はいつでも大歓迎。
義母は皆にそう思わせてしまう。
義母の歳まで生き永らえるとはとても思えないが、
美しく老いた義母の姿を見るにつけ、
ついつい年老いた時の自分の姿を想像してしまう。
息子やその家族に迷惑はかけたくない、とは思うが、
ボケてしまえば、いたし方もない・・・。
ま、その時はその時なんだろうが、
寿命が尽きる日まで、人は死ぬワケにはいかない・・・。
もともと物欲のない義母であったが、
彼女のアパートには、ほとんど家財らしいものはなかった。
残っていたのは義父との思い出の品、
そして、三人の娘たちとの思い出の品々ばかりであった。
しかし、それでも処分しなければならない品がトラックに一杯分はあった。
もとより、人は一物も持たずに生まれてくるのだが、
義母の家財道具を整理するにつれ、
人はまた一物も持たずに滅んでいくのだ、と改めて気付かされる。