■ 穴子のぶぶ漬け

aquio2007-10-29

神戸ビエンナーレから帰る。
今日も忙しかった。
疲れ果ててしまった・・・。
アパートに帰る途中、息子のSの店に立ち寄る。
Sが「何か食べる?」、と訊いてくれる。
「いや、アパートで何か作るわ」、と答えると、
「ちょっと待っててな」、と厨房の中に入っていった。
しばらくすると、
「賄いやけど」、と一椀の茶漬けが出てきた。
椀の横には、半身の焼穴子が添えられていた。
「お前達の晩ご飯じゃないの?」、と訊くと、
「いや、まだあるから大丈夫」、と言う。
嘘に決まってる。
Sは子どもの頃から心が優しかった。
Sは子どもの頃から美しい嘘をつくのが得意だった。
実に嬉しい。
有り難く頂戴することにした。
しみじみと美味しい。
息子の作った穴子ぶぶ漬けを食べるながら、
我が家でも、確実に世代の交代が進んでいることを実感する。
コーヒーをご馳走になっていると、
「明日、お父さんの車を貸してくれない」、とSが言う。
訊くと、明日はNさん宅へ出張しなければならない、と言う。
いわゆるケータリング。
私とNさんとの付き合いは、かれこれ四十五年ほどにも及ぶ。
私が中学生であった頃、
我が家は家電販売店を営んでいたのだが、
その頃、Nさんは毎日のように我が家に昼飯を食べに来ていた。
Nさんは某家電メーカーの営業マンであった。
中学卒の学歴しかなかったNさんは、
言うに言われぬ苦労を積み重ねていらっしゃったが、
今では中堅どころの家電販売店の社長に収まっていらっしゃる。
恩を着せた、とは父も母も思っていなかったろうが、
Nさんは父や母に受けた恩を息子のSを通じて返してくださっている・・・。
そう思えてならない。
しみじみと嬉しいことである。