■ 養命酒
カップに入る量はわずか二十ミリリットルほどだが、
私は約二十五年ほど前から、
毎日、カップ一杯の「養命酒」を朝晩必ず飲んできた。
最初に口にした時は、
「ウエッ!」といような味に感じたが、
慣れれば、これはこれでなかなかに美味い。
昨日は寒気が南下していたらしい。
六甲山では霙のような雨が一日中降っていた。
夕方から鼻水が止まらなくなってしまった。
どうやら、風邪をひいてしまったようである。
「近いから、ま、いっか!」、
と近くの蕎麦屋までシャツ一枚で歩いたのがいけなかった。
アパートに帰り、
炬燵を押入れから引っ張り出し、足を突っ込んで身体を暖めたが、
どうにも鼻水が止まらない・・・。
こんな時はさっさと眠るに限る。
湯たんぽに熱い湯を入れてタオルで包み、
いつもの三倍量の「養命酒」を飲んで、さっさと布団に潜りこむ。
あれだね、いくら「薬用」とはいえ、酒は酒なのだから、
飲んだとたんに、身体が内側からポカポカと温まってくる。
布団に横たわり、「スペンサー・シリーズ」の「沈黙」を読み返しているうち、
気を失うように眠ってしまった・・・。
今朝は七時十五分に起床。
風邪はすっかり治っていたが、眼鏡はすっかり変形してしまっていた。
トホホ・・・、なのであるね。
それにしても、「養命酒」の効き目は相変わらず、すごい。
風邪をひきかけたら「養命酒」なのであるね。
テレビのスイッチを入れ、朝のニュースを観る。
元・西鉄ライオンズの投手であった稲尾和久さんの訃報が飛び込んできた。
私が中学生であった頃、彼はすでに日本を代表する大投手であった。
享年七十歳であったらしい。
「そうかぁ、俺とわずか九歳しか違わなかったのかぁ!?」
「もっと年上かと思っていたのだが・・・」
「彼は伝説上の人物であったからなぁ・・・」
「俺が彼の歳まで生きられるとして、あと九年か・・・」、
などと朝っぱらから感慨に耽ってしまった。
死がいつ自分に訪れるか、そんなことは知ったこっちゃないのであるが、
ま、明日も生きているという前提のもと、
今日も「養命酒」を飲んで頑張ることにしよう。