■ 鰻と狼
「はい、十一日遅れのバースディ・プレゼント」、
と職場のYちゃんが大きな封筒を手渡してくれる。
Yちゃんとは久しく顔を合わせていなかった。
封を切ると、中から二枚の切り紙絵が出てきた。
左手(左前脚?)を腰にあて、
「プッハー」と煙草の煙を吐き出している狼と、
腰に両手(両前脚?)をあてて佇む狼、の二枚の切り紙絵。
「これは何のイメージかな?」、と訊ねると、
「Nさん(私のこと)のイメージ」、という答えが返ってきた。
どうやら、
職員たちの間では、私は「狼」というイメージを持たれているみたい・・・。
両手を腰にあてている狼は、
私がアトリエの中でもの思いに耽っている時のイメージ。
煙草をふかしている狼は、
私が一仕事終えた時のイメージであるらしい。
「ど〜んなもんだい!」
「矢でも鉄砲でも持ってきやがれ、ってんだ!」、
というような顔つきで煙草を吸っていることがあるらしい。
「豚と言われるよりはマシやけど、しかし、俺のどこが狼やねん?」、と訊くと、
「美しい女性を見ると犬のようにすぐ尻尾を振る」
「しかし、犬のように従順な部分は欠片も持ち合わせていない」
「いつもニコニコしているが、時折牙が見えることがある」、
という返事が返ってきた・・・。
「しまった!」なのであるね。
これから尻尾は両足の間に挟んでおくことにしよう。
能ある鷹は爪を隠す、と言うではないか。
下心のある狼は尻尾を隠さなければならない、のだった。
しかし、Yちゃんに絵心があるとは今まで気付かなかった。
一生懸命に作ってくれたのだろう。
お礼に、元町「青柳」の鰻をご馳走することにした。
店に近づくにつれ、鰻を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
鰻重を二つ注文する。
「どう?」と訊くと、
「こんなに美味しい鰻を食べたのは初めてです」
「鰻ってこんなに香ばしくって軟らかい食べ物だったんですね」、という答えが返ってきた。
喜んでいただけて何より。